症例Report
『消化管破裂』
:2017. 1. 27
:西川
症例
消化管穿孔による腹膜炎 <雑種犬 7歳 避妊メス>
稟告
1週間前から元気消失、食欲低下。他院にて腹腔内に腫瘍があると言われ、ステロイド、胃薬、抗生剤の処方を受けていた。
超音波検査所見
中程度腹水貯留、消化管壁の重度肥厚が認められた。
X線検査所見
腹腔内遊離ガスが認められた。
腹腔内に透過性の低い遊離ガス所見が認められる
血液検査所見
白血球数の中程度上昇,およびCRP上昇、中等度の貧血が認められた。
腹水およびFNA検査所見
腹水は比重が1.026、炎症細胞が多数、細菌の検出も認められた。腫瘤のFNAでは肉芽腫性の炎症所見が認められ、腫瘍細胞は確認できなかったが、腫瘍の疑いは否定できなかった。
診断
上記の検査結果から消化管腫瘤の穿孔による腹膜炎であることは明らかであった。
治療
本症例は急性腹症として早急な緊急手術が必要であった。中等度の貧血があったため、術前から術中にわたり輸血を行った。穿孔した消化管(腫瘤)を摘出し、腸管どうしを端端縫合にて縫合した。腹腔内は消化管内の内容物で汚染されていたため、摘出、縫合後は大量の生理食塩水(10L)で洗浄した。最後にJバックドレーンを装着し閉腹した。術後腹水は徐々に減少したため、2日後にドレーンを抜去した。抗生剤の投与を行い、術後6日後に退院した。
[術中写真1]
腸管に腫瘤を確認
[術中写真2]
腫瘤を腸管ごと切除
[術中写真3]
切断した腸管を吻合
病理検査結果
旺盛な炎症を伴う高グレード悪性リンパ腫
考察
急性腹症とは、急激な腹痛により緊急手術の適応か否かの判断が要求される症候である。 今回は様々な検査所見より、明らかに緊急手術を必要とする症例であった。 病理検査では消化器型悪性リンパ腫と診断された。この腫瘍は本来FNAで診断できることが多いが、病理結果で炎症を激しく伴っていたことから、FNAでは炎症所見しか確認できなかったと推察できる。また穿孔の原因には、消化器型リンパ腫に対してステロイドを使用したことにより、腫瘍細胞が死滅して誘発されたと考える。悪性リンパ腫に対してステロイドは確立された治療薬の一つであることは周知の事実であるが、今回のように消化器型リンパ腫では腸管穿孔を誘発する恐れがあるので十分な注意が必要となる。これだけ激しく腹膜炎を起こしている状態では命にかかわっても不思議ではなかったが、術後良好に経過してくれたのでスタッフ一同心より安堵した。今後は抗がん剤をお勧めしておりますが、現在検討中です。